「月に囚われた男」 こんな映画を観た:16

とても切ない、旧くて新しい社会派レトロSF。

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装丁が気に入ったので、珍しくパンフを買いました。CDジャケットより2まわり大きいサイズ。

 近未来。主人公サム・ベルは月の裏側でたった一人で働く労働者。地球は資源が枯渇してしまい、月の裏側にある「ヘリウム3」という鉱物を採掘するために「ルナ産業」という会社に雇われて月までやってきた。契約期間は3年。採掘基地はサムと、人工知能で会話できるロボットのガーディのみ。通信手段は故障していて、過去の妻のビデオメッセージを何度も再生し見ている。

 契約期間があと2週間、やっと地球に帰れるという時に採掘中の月面作業車で事故を起こしてしまう。目が覚めてみると、診療台に寝かされている。ガーディが助けてくれたのか。

 ところが、そこでサムは信じられないものを見てしまうことに。そして自分の悲しい運命を知ることになる。

セット、CGが秀逸。

 まず、セットが昔のSFを彷彿とさせる。自分的にはスターウォーズのエピソード4~6か、エイリアンの1か2あたりをイメージさせるセット。 基地の中なんかは、なんだか「デススター」の中みたい。未来の話に古いも新しいもないが、何だか懐かしい。まず舞台が「月」という時点で最近はあまりSFでは扱われない舞台。月面作業車や自動運転の採掘ブルドーザー?も何だかいかつい、シブイデザイン。

 CGも控えめ、登場人物は数名。というかほぼ主人公のサムのみで進んでいく。相棒のロボットは人間型でもなく、天井とパイプでつながっているゴツい機械で、表情はスマイルマークで表現・・・とレトロSF感が徹底している。

 ストーリーは、ちょっとでも書くとネタバレになってしまうので難しい・・・(汗)なんというか、真実を知ってしまったサムがとても悲しい。 そして、運命に立ち向かおうとするサムたち。どこにも行けない悲しさ。労働者としての悲しさがとてもよく表現されている。

 俳優はサム・ロックウェル 「グリーン・マイル」の凶悪犯が印象的。今回のクレイジーな感じからクールな感じまでとても見事。 ロボットのガーディの声はケビン・スペイシー 「セブン」の凶悪犯役、「スーパーマン・リターンズ」の悪役レックス・ルーサー」の役など。硬質な無機質な感じの声がとてもロボット声にマッチしていた。

 原題は「moon」。そのまんまだ。邦題はうまいんだけど、アレですよね・・・。監督はダンカン・ジョーンズ  ミュージシャンのデヴィッド・ボウイの息子。わざわざこうやって「七光り」的なことを書かなくても十分良い映画です。



 ・・・・やっぱり感想を書きたいので、下にネタバレ気味で感想を書きたいと思います。

2010年の映画。

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パンフの中身はこんな感じ。シブイ。

★゜・。。・゜゜・。。・゜☆゜・。。・゜゜・。。・゜

 ストーリーの続き。

 事故から目覚めてみると、なんと自分が目の前に立っている。(←そこでピンときてしまうんだけど)なんとサムはクローンだった。事故ったサム(以下、サムA)と新たに現れたサム(以下、サムB)とそしてロボのガーディでその後の物語は進む。

 実は、サムBがサムAを助けてくれたのだった。

 サムAの事故後、多数いるクローンの中からサムBが起こされるが、サムBの周囲が何だかおかしい。なんらかのエラーで、サムAが処理される前にサムBが起こされていた。

 サムBは自分が事故った月面採掘車に行ってみると、そこには事故って瀕死のサムAが。そこでサムBもクローン人間がいることを知る。 そして地球とは通信機器が故障で交信できないというのもウソだということがわかる。交信できてしまうと、クローンというのがバレてしまうからだ。

 ガーディの助けもあり、サムたちは自分の運命におびえながら、何とかして地球に帰ろうとする。・・・ってAだのBだの文字で書いたら頭がこんがらがりそうになるのだが・・・全く同じ顔(当たり前だ)だが、サムAは事故ってからどんどん体調が悪くなり、顔の怪我は治らないので瀕死のまんまな感じの外観、目覚めたて?のサムBは健康な普通の外観。と区別できるようになっている。だが、それ以上にサム・ロックウェルの演技によって、気性の荒いサムAとクールなサムBをサム・ロックウェルが演じ分け、全く別の人物として機能させている。この役者さんはとても味わい深い演技しますね~。(演じてる役者の本名まで「サム」なので、何だかわかりにくい文章になってますが(汗))

 最初はいがみあっていたサムたちも、最後には友情も生まれ、お互いこの局面をどうやって打破するか協力するようになる。私はクローンでないのでうまく共感できたかわからないが、自分の運命を知ってしまった切なさがひしひしと伝わってくる。妻との思い出も、実は元のサムから植え付けられたコピーの記憶。ヒマな時にコツコツ作り上げられた、趣味で作った街のジオラマも実は3年ごとに死んでいった昔のクローンたちからの積み重ねだった。結局サムは故郷に帰れないという、ゴールのない切なさ。

 今から思うと、実はクローンだったという設定は特別重要なファクターではなく、むしろその後のクローンたちの運命の切なさをどう表すか。クローンの切なさ、労働者として大企業に雇われている者としての切なさなどが感じとれる映画。観ている途中も、「この何ともいえない気持ちはいったいなんなんだろう・・・ほんとに切ない。」と思ってました。

 映画のタイトル「月に囚われた男」もうまいこと内容を表現しているのだが、今から考えるとなんだかネタバレな感じ。

 一応ラストはカタルシスもあり、スッキリできる内容になっている。

 低予算で、しかもたったの33日間の製作期間で作ったのにこの内容。映画のよしあしはお金のかけかたよりも、人間の頭の中から出てくるアイデアで決まるものなのだといういい例。

 きっと数年後にTVで放映されるとしたら、ゴールデンタイムじゃなく、ド深夜にさらっと放映されそうな映画ですが、決して広い意味で「ゴールデン」な映画ではないが、とても味わい深い映画です。

おわり。