「セイジ 陸の魚」 こんな映画を観た:58

 森山未來君の作品は「百万円と苦虫女」くらいしか観てないけど(その時の感想はこちら)、森山君が出ているとなんとなく良作だろうと思えてしまう不思議(笑)というわけで観てきました。良作でした。原作の短編書籍があったので、後で読みました。

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ざっくりストーリー

 時は1990年、僕(森山君、劇中では「タビビト」とみんなに呼ばれる)は大学4年生。就職の内定も決まり、夏休みに、きままにチャリンコであてもない一人旅に出かける。峠道を走っていたら、軽トラにはねられ、軽傷を負ってしまう。自転車は前輪がつぶれてしまう。

 その軽トラのあんちゃん:カズオに連れられたのが峠道のドライブイン「HOUSE475」。オーナーの翔子さん(裕木奈江さん)に治療してもらい、雇われ店長のセイジ(西山秀俊さん)の独特の魅力に、そして常連客たちの雰囲気に魅かれ、しばらくそのHOUSE475で働くことに。

 翔子さんもセイジも何か後ろ暗い過去がある模様。それが徐々に明らかになってゆき・・・。

 それを現代の、大人になって結婚もし、横浜ナンバーのレクサスに乗っている僕が回想するシーンから始まる。

感想

 邦画が洋画より優れている点のひとつとして、同じ生活圏・人種なので共感度、映画の空気感が洋画のそれより自分になじみやすいというのがある。

 で、この映画は、観ていて「この空気感いいな~」と久しぶりに思った作品でした。くたびれたドライブイン・HOUSE475に集まる人たちはみんな懸命に生きているけど、この場所はちょっと現実離れした逃避所のような。それが居心地がよくて常連客のみんなも「僕」もいついているんだと思う。

 映画のタイトルにもなっている「セイジ」はどこか達観した、浮世離れした感じの男。何でこの男がこのような感じになってしまったのかが劇中でも説明されている。動物愛護団体とのやりとりや独特の言葉の言い回しによってキャラは組み立てられている。

 セイジの世捨て人的なポジションながら一周して全てを肯定しているような感じがよかった。動物愛護団体とのやりとりで、「動物を守るんなら、人間が死んだ方がいい(うろ覚え)」「(去っていく動物愛護団体に対して)でもあいつらも悪くない」とかね。

 翔子さんは突然息子を奪われ、突然このドライブインをあてがわれた悲しい過去があり、酒に溺れたり身投げしようとしたりの中の生き方。演ずる裕木奈江さんはもうアラフォーだったのか!意図的なのか法令線がわかるくらいアップになったりで、女優によってはためらうであろう、人生に疲れたくたびれた感じがとてもよかった。

 ストーリーの途中で時間軸が元に戻り、他の人間がどうしていたかが説明されるが、場面転換が唐突すぎてわかりづらかった。もう少しなんとかして欲しい気もしましたが。

 そんななか後半は急に理不尽な暴力に襲われる。人生は理不尽で、その中に救いはあるのかと思う。その時セイジが出した答えは強烈で、達観したセイジにしか出せなかったのではと思う。映像化するとかなり極端で、好みが別れるんじゃないか。

 ふだんなんとなく生きている自分だが、「生きる」とはどういうことが考えさせられる。浮世感たっぷりのHOUSE475は居心地がいいが、でもそれなりに生きていかねばならない。冒頭の回想シーンで表される現代の「僕」がレクサスに乗ってたりするところは、「僕」は日常に戻っているというメタファーなのではと感じる。ちゃんと現実で生きていると。

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原作は

 原作はもっとシンプルで、「僕」が軽トラに轢かれることもなく、セイジの過去は謎のまま、翔子さんは離婚はしていないし子どももいない。カズオはスナックでブン殴られることもない。伊勢谷監督の進めているプロジェクトに寄せた感じになっているのかとも感じた。でもセイジや翔子さんの暗い過去を盛ったりしてる分、物語は深みを増しているんだと思う。

 BGMとしては、山あいに吹き抜ける風の音、エンディングのせつないピアノの演奏が印象的だった。

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 買ったパンフを読んで驚いたのが、実際の「HOUSE475」のロケ地は栃木県日光市の山奥にあるのだが、森山君が実際に東京からチャリンコでここまで野宿しながら行ったということ。

大きな地図で見る

 これが映画の役作りとしてどのように作用するかわからないが、常人ではできっこない役作りに森山君の、役者魂の凄さを感じた。

2012年の映画。

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