「さよなら渓谷」 こんな映画を観た:102
贖罪とはなんだろう、赦しとはなんだろう
ざっくりストーリー。
感想
画面のざらっとした質感、全体の暗いトーンがどんな映画かを物語っている。雰囲気が出ている。日本映画独特のこういった質感は好き。
舞台はとある渓谷の街。主人公の俊介とかなこはボロ借家に住んでいる。謎が多い二人。セックスシーンが多い二人。
その隣の家で事件が起き、その流れで俊介は取り調べられたりいろいろと巻き込まれる。その取材をしたとある週刊誌の記者渡辺(大森南朋さん)。かつては社会人ラグビーの選手だったが男が今はしがないブン屋といったところか。その「堕ちた」感は男の無様な肉体に現れている。あのワンショットで渡辺の今現在の状況が見て取れる。
役作りなのかそのまんまなのかわからないけど、見事な肉体説得力。この渡辺が第三の主人公って感じ。嫁さんとの仲もうまくいってない。それにしても奥さんは鶴田真由だし同僚の女の子は鈴木杏だしなんだか脇役陣が豪華。杏ちゃんはシブい、いい女優さんになったな。
この作品が重きを置いているのは、主人公の俊介とかなこの関係性が明らかになることではなく、そこに至った過程のようだ。中盤からはその過程が丁寧に描かれている。主題は現在の話から主に過去の話へシフト。かなこの髪型が変化しているのでわかりやすい。岸壁の寒風吹きすさぶ中、知らない街を歩く。ひたすら歩く。村上や越後川口方面で撮影されたっぽい。海っぺりの寒さはダンチガイだろう。そのずっと歩いてゆく道のりが二人の関係を、心境を映し出しているようで。
一連の二人の関連性が明らかになると、前半の、俊介が炊飯器を買おうと申し出て取り下げるのはそういうことだったのかというのがわかる。この微妙な関係。かつてはビールを注いでも拒否されたが、今は受け入れてくれている。でも。
たいていいじめた側はいじめていたことを忘れてしまうが、いじめられた側はずっと憶えている。いじめられた側の復讐の形として、そのメンバーを次々と殺していくのはホラーやサスペンスでもある常套手段。でも殺さず罪を背負わせて生きてゆかせるのが一番の復讐なのかもしれない。これはキツイ。
かなこの気持ちを一番理解できるのは皮肉にも俊介しかいない。罪滅ぼしのために一緒にいるのか、罰を与えるために一緒にいるのか。セックスはOKなのに赦していないのか。どういう意味なんだ。理解できないぞ。
2013年の映画。