「TIME/タイム」 こんな映画を観た:49

 まさにこの世の中そのものの映画。ストーリーは単純だし、ツッコミ所満載ではありますが、見終わったあと、自分の生き方について考えさせられた。ある種、今年の私的ベストワン映画かも。

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 時代設定は近未来。全ての人間は遺伝子操作によって25歳で成長が止まり、残りの時間は一年、あとは稼いだり盗んだりして時間を得なければ死んでしまう。「時は金なり」そのまんま。そんな、映画ならではの非日常体験が、比喩として強力なジャンプ力(りょく)で逆に自分の生きてる現代社会へ迫り、心に訴えかけてくる作品。

 この映画を観ながら、今生きてる社会がなんだか逆に現実を見せつけられてるような気がして怖くなった。主人公たちの平均の手持ちの時間は23時間くらい。要は明日はわからん生活。振り返って自分は普通のサラリーマンなので、明日も目が覚めれば仕事があると思っているが、その先はどうなるかわかならい。明日も来週も来月も来年も仕事があるなんて保障はどこにもない。

 自分は何のために働くのか、手持ちのお金は本当に意味のある買い物をしたのか、さっきコンビニで買ったお菓子は必要だったのか、映画の中の人たちみたいに食べ物やローンに「時間」=「命」をかけているわけではないけれど、意味合い的には一緒だ。

 ジャスティンティンバーレイク扮するウィルは母親と2人暮らし、母親は50歳だけど見た目は25歳のピッチピチのレディーでストップしているので、設定とはいえ何だか違和感。でも違和感どうのこうのはストーリーが進むにつれどうでもよくなる。現代社会に酷似した設定が妙に身にしみてそっちの方に気が向いてしまってしょうがなかった。

 左腕に緑色の液晶表示でタイムバーが設置されており、右腕の内側に非接触デバイスがあって、機械と、もしくは他人と時間の受け渡しができる。そのタイムバーのVFX合成がなんだかリアル。時の刻みかたや、夜の海に飛び込んだ時はなんだかホタルイカのように幻想的な感じとか。音も時を「注ぎ込む」感じの音がよい。言葉で擬音をうまく表現できないけれど。

 この世界では現実社会と同じようにどこかにいる富裕層と、私みたいな一般の層がおり、一般の層は常に余裕がない状態、移動には走ったり、ちょっとした物価高でもめたり。「時間」を奪うギャングがいたり。富裕層はルートはわからないけど永遠に近い時間を持っていて、決してあせらず、優雅にパーティーを開いたり、ギャンブルを楽しんだり、この格差、現代社会そのものだ。富裕層はみんな100年以上も寿命を持っている。自分が100年以上働かなくてもよい金持ちだったらいったいどうするだろうか。100歳で肉体が25歳の自分はどういう心持ちだろうか。

 ところがはたまたま助けた富裕層の男に、おまえ等は時間を搾取されているんだよと教えられ、そして長生きするのが決していいことでは無いんだよと知らされる。肉体は消耗しないけど心は消耗するという言葉が印象的。

 その後、ウィルたちはルパンもしくは石川五右衛門(義賊の方の)的な行動を起こし始めるが、なんというか、攻められる側が「ザル」。こんなんだったらとっくに一般人に襲撃されているんじゃね?と思ったり、簡単に銃が当たったり当たらなかったり。正直、あっと驚くような展開はなかったけど、常に時間との戦い、死と隣り合わせの展開がドキドキというより心がざわざわするような、そんな感じ。

 限りある生命だから輝ける。なんて手垢のついた表現はどうでもいいけど、富裕層のとある男の言葉「(長い長い寿命を)持ったら手放したくなくなる(うろ覚え)」はその立場になったらそうかも。この両極端の言葉、どちらもなんとなく共感できる。今いる時間は永遠のような気がするけど絶対にそんなことはない。ある程度稼ぎがあっても明日はどうなるかわからない。

 文章的に重複する部分が結構多いけど気にしない。それだけインパクトのあった作品。

2012年の映画。