「アーティスト」 こんな映画を観た:54

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 ストーリーはわりと単純。サイレント映画全盛のスター:ジョージが、ひょんなことから新人女優のペピーと出会い、アドバイスを送る。

 そしてトーキー映画のうねりが始まり、ペピーはその流れに乗り、売れっ子女優の道を駆け上がる。

 一方でジョージはトーキーをさげずみサイレントへ固執し、契約していた映画会社と袂を分かつ。そして自主サイレント映画を製作するが大コケし、凋落の一途をたどる。

 それの一部始終を観ていたペピーは、ジョージに見出された恩義を忘れてはおらず、ジョージを助けようといろいろと策を講じて…。というお話。2012年アカデミー賞最多5部門受賞(作品賞、主演男優賞、監督賞、作曲賞、衣装デザイン賞)作品です。

 見どころは、落ちたジョージをどうやってペピーは助けるのか。ジョージは立ち直れるのか。そして犬の演技(笑)

 男子は女子に比べ「プライド」が高い気がする。だからジョージもサイレントにこだわる。でもプライドは1円の金にもならない。劇中でもジェームス・クロムウェル扮する執事が「プライドは捨てなさい」と言っていた。人生にはプライドよりも、新しいものをどんどん取り込んでいく柔軟さが必要なんではないか。

 ぺピーは自分を見出してくれた恩義から、ジョージをこっそりサポートしようとする。ケナゲだ。

 男として自分で新しい道を切り開けず、とてもなさけないジョージではあるが、それでもジョージが輝ける場所を見つけてくれたぺピーの配慮が泣かせる。新しい道というよりはかつて輝いていた道を見直す感じか。その辺はちゃんと前半の前フリが利いている。本当はジョージ自身が新しい道を切り開くべきなんだろうが、この映画はぺピーとジョージのロマンスの話なのでこういうもんかな。

 サイレント映画の特徴として、合い間にセリフのみの「間」が挟まれるが、それ以外は俳優が何を言っているのか、想像するしかない。自分で声をあててみたり想像したりが求められる。それはそれで楽しい。自分で頭の中で声をあてようとすると、男の声はともかく、女の声は女声でなくなぜかオカマちゃん声が頭の中で浮かんでしまう(笑)一人で何役も(勝手に)あててるせいか。

 今の映画、テレビはぼーっとしてても向こうから勝手にストーリーはなだれこんで来るが、サイレントはわりと観る側の努力が必要。演者の表情から感情を読み取るなどの能力が問われる。じゃないと映画が楽しめない。そういう理解力が鍛えられた感じ。つねにこのシーンは何を意味しているか、この演者は何が言いたいのか、などを考える必要がある。

 にしても「無音」のシーンが結構多く、自分ら観客のちょっとした動き、ドリンクを手にとったり姿勢を正したり咳払いしたりがすごい音が目立つ。こういう映画は初めてだ。

2012年の映画。